樒(シキミ)

墓前には、色花の代わりに、シキミがお供えされます。「仏教はシキミ(樒)、神道はサカキ(榊)」と覚えてらっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。
 また、その漢字からも分かるように、密教の修法には、シキミ(樒)の葉が多く用いられます。
 では、なぜシキミをお供えするのでしょうか。シキミについて、説明させていただきます。

シキミとは、どんな植物?

シキミ(樒)
・シキミ科シキミ属の常緑小高木。
・本州(宮城以南)、四国、九州、台湾、中国などの山林中に
広く生育。
・樹皮や葉には独特の香りがある。
・春先に淡黄白色の花を咲かせる。
・有毒植物。
・名前の由来は、有毒のために「悪しき実」と呼ばれたのから転じたという説や、「臭き実」「重実(シゲミ)」「敷き実」など実の様子から転じたという説、年中いつでも芽を出す事から「四季芽」から転じたという説があるようです。
・シキビ、コウノキ、ハナノキ、仏前草などの別名があります。

しきみをお供えする

このシキミをどうして仏前にお供えするようになったのでしょうか。

◎仏様の世界で咲く花「青蓮華(しょうれんげ)」に似ているから
 青蓮華は、たびたび経典に見られますが、それは普通の蓮華とはまったく違い、花葉は細長く極めて美しいといいます。
 この華葉が細長いところがシキミの花葉と似ているというのです。
 しかも、シキミも青蓮華の故郷であり、仏様の住む、天竺(インド)から伝えられたといわれます。
 そして、日本に初めてシキミを持ってきたのは、あの有名な鑑真(がんじん)和尚だったそうです。

 これは、明治時代に書かれた、『眞俗佛事編』に載っています。
「樒ノ實は本天竺ヨリ来レリ本邦ヘハ鑑眞和尚ノ請来ナリ 其形天竺無熱池ノ青蓮華二似タリ 故二此ヲ取リテ佛二供ズルト云々 供物義」(『眞俗佛事編』巻の二 供養部六 引用)
とあります。

◎仏前に季節の花(時花)をあげようと思っても手に入らない事があるから
 やはり仏前には、きれいな季節の花を供えたいものですよね。
 しかし昔は、山の中や、寒い冬の時季にはきれいな花がなかなか手に入りませんでした。
 そこで、冬でも常に緑で、山の中の薄暗いところでも育つシキミが重宝がられたのでしょう。
 シキミは、花瓶に挿しておくと長持ちしますから、使い勝手もいいですしね。

◎その香りを仏様に供え、また狼などの獣はその匂いを嫌ったから
 日本には、自生する香木というのは無く、シキミのように匂いのある木は、珍しかったようです。
 シキミの葉は、お香の原料としても使われますから、その珍しい香りを、仏様にお供えしたかったのでしょう。
 シキミを水にさすことによって、水を香水(こうずい)と呼ばれる仏様に供える水に替えているともいいます。

 また昔はお墓を狼などの獣が荒らしに来たようですが、強い匂いと毒性を持つシキミをお供えすると獣が嫌がったそうです。

(ただ、犬や猫がシキミを嫌がっているのを見た事がありません。)

◎水が腐りにくくなる
 シキミを入れた花瓶は、水が腐りにくくなります。
 花瓶の水は、腐りやすいものですが、シキミをさしておくと腐るのを防いでくれます。
 このため、時花とともに、シキミも一緒に挿しておくことも多いようです。

 それに毒性のある植物ですから、その毒性に昔の人たちは神秘の力を感じたのかもしれません。

 このような理由でシキミは、仏さまの木になり、今でも仏花として用いられるのでしょう。
 シキミは千手院の境内にも植えてありますが、ご自宅で育てて、仏壇にシキミをお供えしてみてはいかがでしょう。

 

シキミの花

 

 

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